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MENTAL HEALTHメンタルヘルス

こころのコンディショニング
気づいて、整えて、話してみる。

【おとな向け】監修者からのメッセージ

監修者からのメッセージ

ラグビーを続けていると、すごく楽しい日もあれば、「今日はあまり乗らない」「気持ちが少し重い」と感じる日もあります。
これは異常ではなく、体と同じように、こころにも波があるということです。
このコンテンツが目指すのは、その波をなくすことではありません。気づいて、少し整えて、またプレーや生活に戻る。そのための「こころのコンディショニング」を、子どもにも、周りの大人にも、日々の中で使える形にしました。

大切にした3つの視点

本コンテンツを構成するにあたり大切にした視点は、次の3点です。
  1. 気づく こころの状態を言葉にできるようにすること
  2. 整える 自分に合う整え方を小さく試せること
  3. つながる 必要なときに話して助けを借りられること
メンタルのケアは、調子が悪くなったときだけの特別なものではありません。よく眠る、食べる、休む、気持ちを言葉にする、仲間と話す。こうした日常の積み重ねが、結果としてこころを守り、プレーの安定にもつながります。
特別な選手のためではなく、ラグビーをする子どもたちと、それを支えるコーチ・保護者・先生が、いっしょに取り組める形を目指しました。

8つのコンテンツ

このコンテンツは、次の8つのタブで構成しています。
各タブで、こころの成長(発達)と、メンタルヘルスケアの考え方の両面から説明します。

いま、どんな気分?

こころのケアの第一歩は、「自分が今どういう状態か」に気づけることです。
子どもは、体の疲れや緊張、悔しさや不安を感じていても、それを言葉にできないと「なんかイヤ」「もういい」といった形でしか表現できないことがあります。こころの様子を言葉にする力が育つと、無理をしすぎる前に立ち止まったり、助けを求めたりしやすくなります。
また、年齢によって「表現しやすい形」が少しずつ変わります。小学生は「選ぶ」「短く書く」が取り組みやすく、中高生は「気分・体・人との距離」など、少し整理して書けるようになります。長文にしないのは、考えすぎて止まるのを防ぐためで、短くても毎日続く形が習慣化に向いていると考えています。

イライラ、ほどいてみよう。

怒りやイライラは、悪いものではありません。多くの場合それは、「大事にしたかった」「期待していた」「疲れて余裕がなかった」など、別の気持ちの表れでもあります。
感情に飲み込まれると、プレーや人間関係が荒れやすくなりますが、感情に名前がつくだけで、脳は少し落ち着き、次の行動を選びやすくなります。「ムカつく」のままだと対立になりやすいので、少し言いかえる練習を入れています。これは我慢を教えるというより、自分の感情を理解して扱えるようになるための小さな技術です。
言いかえができると、仲間や大人に伝えるときも、自分のこころを守りながら話せるようになります。

くやしい…でも大丈夫。

スポーツでは失敗は避けられません。
しかし、失敗=自分がダメと結びつくと、自己否定が強まり、挑戦が減り、回復が遅れます。
大切なのは、失敗を責める材料ではなく、次の準備に変える材料として扱うことです。これはレジリエンス(回復する力)や学習にもつながります。反省を長く書かせないのは、振り返りが自分責めに変わりやすいからです。「今回は何が分かったかを1つ」「次にやることを1つ」に絞ると、こころが未来に向きやすくなります。1つだけにするのは、気持ちが重い日でも続けやすい設計にするためです。

ちゃんと伝えてみよう。

ラグビーはチームで行う競技です。
だからこそ、気まずさや誤解が積もると、プレーだけでなくこころにも負担がかかります。
一方で「ありがとう」「ごめん」が言える関係は、心理的安全性を高め、失敗から学び直す雰囲気を作ります。これは優しさの話というより、チームの学びと安定の土台だと考えています。気持ちをすぐ言えない日もあります。そこで「その場・あとで・メッセージでもいい」として、やり方を複数にしました。
重要なのは完璧な対話ではなく、つながりを切らないことです。短い一言ができるだけでも、次の対話が生まれやすくなります。

ドキドキしてる…大丈夫?

緊張やストレスは、「これから頑張るぞ」と体が準備しているサインでもあります。問題はあることではなく、強すぎる・長すぎることです。
緊張を悪者にしてしまうと、余計に気にしてしまい、パフォーマンスが下がることもあります。だからここでは、消すのではなく整えることを目的にしています。
緊張しているときに効きやすいのは、気持ちを無理に変えることよりも、行動を小さく決めることだと考えています。「今日やることを1つ」「確認を1つ」にしぼると、注意が整理されます。呼吸はその土台を作るシンプルな方法で、だれでも使えるため採用しました。

元気、取りもどそう。

疲れがたまると、集中や判断、感情のコントロールが難しくなります。
子どもは特に、疲れを言葉にしにくく、「やる気がない」「反抗的」に見える形で出ることもあります。セルフケアは甘やかしではなく、回復を計画する力であり、長く競技を続けるための基礎だと考えています。
また、「休む」は、大人の許可があると実行しやすくなります。そこで、睡眠や休息に寄せた具体的な行動を置き、今日できることを選べる形にしました。毎日完璧に整えるのではなく、回復のスイッチを入れることを目的にしています。

今日はこれだけでOK。

「もっと頑張れ」「前を向け」はスポーツの現場でよく聞く言葉ですが、気持ちが落ちている日にそれを真面目に受け取ると、苦しくなることがあります。
そこでこのタブでは、前を向くを根性ではなく、小さな達成の積み重ねとして捉え直します。目標は大きいほど良いわけではありません。続くことが大事です。「できたら◯」「できない日は空欄でもOK」とすることで、失敗体験が重ならないようにしています。これは自己効力感(自分はできるという感覚)を守り、再挑戦しやすくする工夫です。

なんか、ひとりな気がする。

競技現場では、女子が少ない、学年が1人、別メニュー、ベンチ、ポジションが自分だけなど、さまざまな少ない側の経験が起こります。こうした状況は本人にしか見えにくく、周囲も気づきにくいので、孤立感が強まりやすい領域です。
孤立はメンタルヘルスのリスク要因になり得るため、あえて独立したテーマとして扱いました。ここで目指すのは、特定の誰かを特別扱いすることではありません。チーム全体が「少ない側の経験がある」ことを知り、名前で呼ぶ、誘う、一緒にやるといった小さな行動を増やすことです。こうした行動は、本人の安心だけでなく、チーム全体の心理的安全性を高めます。結果として、練習の学び直しや修正がしやすくなることも期待できます。

最後に

子どもが「今日はうまくいかなかった」「ちょっとさびしかった」と口にできたとき、それは弱音ではなく、成長が始まる合図だと私は考えています。しかし、その一言が出てくるまでには、子どもの中でいくつものハードルがあります。うまく言葉にできない日もあれば、「言ったら迷惑かもしれない」「弱いと思われるかもしれない」と感じる日もあります。
そのため、こころの様子を言葉にできるか、困ったときに助けを求められるかは、本人の性格や根性だけで決まるものではありません。むしろ大事なのは、それが言える環境があるかです。
たとえば、ミスを笑いにしない、比べない、誰かの落ち込みを「気合が足りない」で片づけない。短い一言でも受け止めてもらえる。言えない日があっても責められない。そうした小さな積み重ねが、「ここなら話していい」という安心感をつくります。こころのコンディショニングは、個人の努力だけで完結するものではなく、チームや家庭、学校といった環境の設計と切り離せません。
このコンテンツでは、子どもが自分の状態に気づき、少し整え、また戻っていくための方法を紹介しています。しかし、方法があっても、試せない空気の中では続きません。だからこそ、周りの大人の役割はとても大きいと感じています。
大人がすべてを完璧に支える必要はありません。ただ、できる範囲で、今日から少しずつ環境を整えていくことはできます。
「まず聞く」「比べない」「今日やることは1つでいい」この3つだけでも、子どもはずいぶん話しやすくなります。
私が特に願うのは、子どもが「うまくいかない日」を自分の責任として抱え込まなくて済むことです。調子の波はだれにでもあります。波があること自体を問題にするのではなく、波が来たときに立ち止まれること、整える方法があること、そして必要なら助けを借りられること。そのための環境を、子どもと大人が一緒につくっていけたら、ラグビーはもっと長く、もっと安心して楽しめるものになると思います。現場にはすでに、たくさんの知恵と経験があります。このページはそれを置き換えるものではなく、日々の実践に「少しだけ足せるヒント」として作りました。子どもが自分のこころを扱えるようになることは、競技のためだけではなく、これからの人生の力にもつながります。
今日できることを1つだけ。
そこから一緒に積み重ねていけたら、と願っています。