Sports announcerスポーツアナウンサー
30歳を前に人生最大のチャレンジ アナウンススクールで学び、スポーツ実況の道へ│スポーツ実況アナウンサー 谷口廣明
~スポーツアナウンサー編~
谷口廣明(たにぐち・ひろあき) Sports Zone 株式会社代表
谷口さんは大阪出身ですね。子供の頃の夢はありましたか。
僕ら世代の多くの子供達と同じようにプロ野球選手になりたかったですね。近鉄電車の沿線に住んでいたので、近鉄バファローズの藤井寺球場に観戦に行きました。中学、高校と少しだけ野球をプレーしましたが、早々に夢を打ち砕かれて(笑)、その後はスポーツウォッチャーになりました。テレビでやっているオリンピックやバレーボールなども、よく見ていました。
おしゃべりの仕事をしようと思ったのは、どんなきっかけなのですか。
しゃべる仕事を考えたのは28歳くらいです。大学卒業後、商社で営業の仕事をしていました。普通のサラリーマンで平凡な生活を送っていましたが、人生で何かにチャレンジできるのは30歳までかなと思い始めて、いろいろ考えました。
なぜアナウンサーなのですか。
営業の電話で、「あんた、ええ声やなぁ」、「あんた、おもろいなぁ」などと声をかけていただいて、声や話すことを意識するようになりました。それで、アナウンススクールの社会人コースに通い始めました。さまざまな会社で働きながら、それでも夢を捨てきれなかった人が集まってくるところです。アナウンサー、タレント、ナレーターなどを目指す人たちでした。週に1度、夜6時半からレッスンがあり、話し方の基本を学びました。その後、オーディションを受けることになったのです。
なんのオーディションですか。
通っていたアナウンススクールのオーディションです。そのスクールはプロを養成していて、ピラミッドの頂点がプロで独り立ちできる人、野球のように1軍、2軍があって、その下が勉強中のスクール生です。その2軍レベルのオーディションに合格したのです。すると、仕事がもらえるようになるので、会社を辞めることにしました。
最初の仕事は何だったのですか。
八尾市の夏祭りのストラックアウトです(9枚の的にボールを投げるゲーム)。強い日差しの中で一日中盛り上げて、Tシャツのプリントが背中に焼き付くかと思いました(笑)。それが僕の原点なのですが、人前でマイクを持って話すのは面白いと感じました。
スポーツ実況はどのように学んだのですか。
スポーツ実況がやりたくてアナウンススクールに入ったのですが、スポーツ実況を勉強するコースがなかったのです。だから自分で練習しました。平日は野球場に行き、週末はラグビー場に行って、一人で実況し、それをカセットテープに録音するのです。近鉄沿線だったこともあって、東大阪市花園ラグビー場にはよく行きました。野球は自分なりにできている気がしていたので、他のスポーツもやろうと考えたときに好きなラグビーに気持ちが向きました。それを4年くらいやって、どんどんテープが溜まっていきました。
会社を辞めたあと、アナウンサーの仕事が増えるまで時間がかかったと思います。
会社を辞めて30歳までの2年間は収入はほぼゼロでした。その時期から関西の老舗事務所の昭和プロダクションに所属していました。
そこでフリーアナの大先輩 元読売テレビの羽川英樹さんの現場を付いて回り勉強させて貰いました。師匠と弟子の様な関係でこの世界の厳しさ生き方を教えて頂き充実した時間でした。この時間がなければ今の自分は無かったかもしれません。
そこでフリーアナの大先輩 元読売テレビの羽川英樹さんの現場を付いて回り勉強させて貰いました。師匠と弟子の様な関係でこの世界の厳しさ生き方を教えて頂き充実した時間でした。この時間がなければ今の自分は無かったかもしれません。
4年間録音していたものは誰かに聞いてもらったのですか。
スポーツを放送しているテレビ局の方に機会があったら渡そうと思っていました。いま仕事をしているJSPORTS(ジェイスポーツ)のプロデューサーに渡すことができて、ラグビーの実況者が不足しているタイミングで、オーディションをしていただけることになりました。2001年くらいだったでしょうか。そこからJSPORTSの実況をするようになりました。
現在はさまざまな種目の実況をしていますよね。
ラグビー以外では、日本のプロ野球、アメリカのメジャーリーグ、サイクルロードレース、ウィンタースポーツ(スキー、ジャンプ、モーグル他)などですね。ウィンタースポーツには未知の世界だったのですが、チャンスが来たので引き受けました。知りたいと思ったし、そこで断ったら次はありませんからね。
ラグビー実況の面白さはどんなところにありますか。
ラグビーはずっと試合が流れているので、試合のリズムと自分のしゃべるリズムが並行して進みます。自分の中で中継のリズムが崩れない。ずっと入り込んで話せるのが良いですね。野球は1イニングごとにCMが入りますし、止まって、考えて、止まって、考えてという思考回路になります。間のあるスポーツと、流れていくスポーツは感覚が違いますね。どちらが良いという話ではありませんが、ラグビーは集中力を凝縮して最後まで行けるのが好きですね。
競技としては、どんなところが楽しいですか。
15人対15人の30人がグラウンドにいて、一つのボールを追いかける。誰一人さぼっていないし、手を抜いていないところは面白いです。そこにいかにフォーカスできるか。話し手として、見逃すまいと集中力が高まります。
ラグビーを実況するときに大切にしていることはありますか。
ボールを持っている選手を間違えないことです。トライにつながるまでに、ボールを繋いだ選手をすべて間違いなく表現できるかどうかに集中しています。タックルしている選手をないがしろにしないことも大事です。攻めている人のほうが華やかですが、守っている人のことも、ひとつの情景描写の中で表現できるかどうかですね。
印象に残る試合はありますか。
ラグビーワールドカップでは、日本で開催された2019年大会の静岡での日本代表対アイルランド代表戦ですね。それと、2023年フランス大会の準々決勝のアイルランド対ニュージーランドです。普通に見ている試合と、実況した試合では頭に残る情報量がまったく違います。実況しないときもメモしてみると頭に残りますよね。この2試合は話していて興奮したし、印象に残っています。
谷口さんがラグビーの実況で一番興奮するポイントはどこですか。
ピンチの場面でのジャッカル(スティール)ですね。勝ちにつながるディフェンスをしっかり話せたときが一番嬉しいです。
ラグビーの経験はないということですが、ルールはどうやって覚えるのですか。
JSPORTSの放送を見て、解説の方の話を聞くのが一番の教科書です。よく「ラグビーのルールは難しい」という声を聞きますが、僕は難しいという意識はなく、見ているうちに、なるほどそういうことかとわかっていきました。
現在は会社を立ち上げ、若いスポーツ実況アナウンサーを育てていらっしゃいますね。
テレビ局のアナウンサー出身ではなく、転職してアナウンサーになった身として、その苦しさ険しさは一番わかっています。だから転職をしてまでアナウンサーになりたい人達には、その夢を現実につなげてあげたいと思うのです。会社で特に募集はしていませんが、本当にやりたいと思っている人は調べて訪ねて来ますね。いま所属のアナウンサーが14人います。東京、大阪、沖縄で仕事を展開しています。
アナウンサーに向いているのはどんな人ですか。
性格的なものとコミュニケーション能力はありますね。疑問力、質問力があるかどうかも大事です。しゃべりのテクニックは練習すればなんとかなります。疑問力は、試合を見ていて、なぜそうなるのか、どこか違うのかというところに気づくということです。気づかずに自分の思いだけをペラペラ話してもダメ。気づきのセンスがあるかどうかは重要です。テレビを見ている人が気づいているのに、実況者が気づいていないのは一番かっこ悪い。中継中に見ている人が気づいていないことに気づき、それを解説者に質問できることが一番良いことだと思います。
ラグビーで具体的に言うと、どうなりますか。
選手がポジションを変えることがありますよね。なぜそっちに行くのだろうと思えば、解説者に質問できるし、カメラもそれを撮ってくれる。気づかないと、そこにボールが行ったときに反応できないし、チームがやろうとしている意図をくみ取れていないことになります。
子どもの頃にやっておくべきことで、何かアドバイスはありますか。
人とたくさん話をすると良いと思いますよ。自分が話すより、聞くことのほうが大事かもしれません。人の話を聞けるように、若いころからコミュニケーションをとっておくと、いろいろなところで役立つと思います。コミュニケーション能力を磨けば、初対面の人も苦になりません。どこの世界に行っても、話せることは自分の強みになるでしょう。聞かれることには答えるけど自分から話せない人がいますよね。そこは意識を変えてみる。目の前の人がやってきた仕事について聞いてみようとする。そういう意識でいれば、初対面でも怖くないですよね。
しかし、こんなこと聞くと失礼かもしれないと思ってしまうと怖くて話せませんよね。
教えてもらったことについて「ありがとうございます」と感謝しましょう。相手が、この人は気持ちが良いと思えるコミュニケーションをとっていれば、多少、失礼なことがあってもおおらかに接してくれると思います。
今後の目標はありますか。
スポーツアナウンサーになりたい人が少ないようです。中学、高校生からやり始める子がいたら、スムーズに行けるかもしれませんよ。そんな若い世代の育成もしてみたいと思います。スポーツ発展のためには実況者の数が必要ですからね。AIがやるようにならない限りは。
スポーツ実況はAIでは難しいのではないですか。
スポーツ実況の状況判断をAIができるようになったとしても、選手の心の内を話すのはAIには難しいでしょうね。だから、心の内を読み取れるような実況アナウンサーを育てたいと思います。スポーツ実況をやってみたいという人がいたら、夢をかなえるお手伝いをしますよ。ぜひ、一緒にやっていきましょう。