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技術を支える体づくりがS&Cコーチの仕事 アスリートには健康で安全に長くプレーしてほしい│S&Cコーチ 知念莉子

~S&Cコーチ編~
知念莉子(ちねん・りこ)男女セブンズユースアカデミー S&C(ストレングス&コンディショニング)コーチ

~S&Cコーチ編~

知念莉子(ちねん・りこ)男女セブンズユースアカデミー S&C(ストレングス&コンディショニング)コーチ

ラグビーに関わることになった、きっかけを教えてもらえますか。

私のおじ(母の弟)の當眞豊が沖縄の高校でラグビーを教えていたこともあり、子供の頃からラグビーを見る環境がありました。従兄弟の応援で花園ラグビー場(東大阪市)にも行きましたね。ラグビーに深く関わるようになったのは、兄(知念雄)の影響です。陸上競技のハンマー投げからラグビーに転向して話題になりましたし、東芝ブレイブルーパス東京に入団し、兄を温かく迎え入れてくださったことにも好感を持ちました。

S&Cコーチになったのは、どういう経緯ですか。

私も陸上競技の投てき種目をやっていたのですが、筑波大学の大学院1年生のとき、競技を続けていくのか、他の職業を見つけるのか悩んだことがあります。そのときに、S&Cコーチという言葉を知人から聞きました。エディー・ジョーンズさんが日本代表のヘッドコーチをされているときに、フィジカル面にフォーカスしている記事を見て、ラグビーであれば、S&Cコーチで私がやってきた競技のキャリアやトレーニングの考え方を生かせると思い始めました。その後、筑波大学ラグビー部の監督だった古川拓生先生とお話しして、スタッフで入ることになりました。

S&Cコーチとは、どんな役割なのですか。

スキルコーチは技術を教えますよね。S&Cコーチは、その技術を支えるための体づくりを担当します。ウエイトトレーニングも体づくりのひとつですし、フィールドに出て、スプリント、フィットネスといった体づくりも必要だし、トレーニング前後のリカバリーや、食事にも介入します。

栄養士とも連携するのですね。

栄養士さんには、補食で出したいものとか、体重が減りがちな選手にどんな栄養素を入れたいかなどの相談をします。ラグビーはポジションごとに体重のコントロールも変わりますので、栄養面も含めて、トータルで体づくりをサポートできるように、いろいろな分野のコーチと連携しています。

栄養士(野田遥子さん)インタビュー記事はこちら

大学院ではどんな勉強をしていたのですか。

両親が保健体育の教師だったこともあって、私も保健体育の領域の研究をしていました。どうすれば良い授業ができるかなどです。トレーニング系は独学で学んでいました。私がやっていた円盤投げ、砲丸投げはパワーのいる種目なのですが、ウエイトトレーニングは自分で考えて実践している選手が多いです。私も同じで、どんなトレーニングをしたら良い記録が出るのか、自分を実験台にして研究していました。ラグビーもパワーが大事な競技なので、その経験がラグビー部のトレーニングメニューを作るときの財産になりました。

ラグビーはポジションの特性がさまざまで、トレーニングも違うと思います。どのように工夫したのですか。

それぞれのポジションの強みを調べ、勉強して、このポジションの人にはこういう体力が必要なのだろうと自分なりに考え、各ポジションのトレーニングを作っていきました。

S&Cコーチには、どうすればなれるのですか。

S&Cコーチに必ず必要という資格はありません。資格を出している団体もあるのですが、それはマストではなく、経験値と実績でキャリアが築かれます。知識を持っていても、現場で還元できなければ評価されません。そこが魅力的でもあり、シビアなところでもあります。携わったチームの成績を振り返ったときに、S&Cコーチの功績があったかどうかという評価をされます。怪我の発生率が減る、サイズの大きなチームにもしっかりタックルに入れて、それが80分間継続できるというようなことですね。  S&Cコーチに必ず必要という資格はありません。資格を出している団体もあるのですが、それはマストではなく、経験値と実績でキャリアが築かれます。知識を持っていても、現場で還元できなければ評価されません。そこが魅力的でもあり、シビアなところでもあります。携わったチームの成績を振り返ったときに、S&Cコーチの功績があったかどうかという評価をされます。怪我の発生率が減る、サイズの大きなチームにもしっかりタックルに入れて、それが80分間継続できるというようなことですね。

セブンズアカデミーに関わったのは、いつからですか。

2019年からです。いまのサクラセブンズのヘッドコーチの兼松由香さんがユースのヘッドコーチになったタイミングでした。大学院を卒業して、ニュージーランドに留学するなど、さまざまな勉強をした後でした。

ニュージーランドではどんな経験をしましたか。

知人の縁で、クライストチャーチに行き、ニュージーランドの育成システムを肌で感じました。クルセイダーズのトレーニングにも見学に行って、S&Cコーチからトレーニングメニューのことも教えてもらいました。良い話がたくさん聞けました。

7人制と15人制ラグビーでは、求められる体力などが違いますね。

セブンズアカデミーに関わった1年目は苦しみました。7人制ではスピード、フィットネスが求められる中で、日本の強みを出して世界に勝つにはどうするか。それをユースレベルから作っていくので、長くセブンズを見てきたスタッフの皆さんの話を聞き、選手の動きを見ながら、自分なりに確立していきました。

そのアカデミーからサクラセブンズに上がった選手もいて、いま世界でもトップクラスで戦えるようになっていますね。

兼松さんは、日本の強みはなんだろうというところから話をされています。一対一で勝つというよりも、1人に対して、2人、3人で勝つような状況を作る。フィールドに立っている7人が連動して、相手が嫌になるくらいタックルし、パスをつなぐ。試合時間の14分間、つながり続けることが日本の強みです。ユースの選手にもそれを伝えていますし、その上で、相手を置き去りにするスピードを求め、タックルされても、しても倒れないフィジカルを身に着けてほしい。それを伝えて、トレーニングをさせています。

S&Cコーチとして喜びを感じるのは、どんな時ですか。

試合で求めていたパフォーマンスを出してくれたとき、それを肌感覚で感じるときですね。一年を通じてパフォーマンスを見ているので、最初は求めていた動きがまったくできなかった選手が、最終段階で最後までタックルし続け、その後のリロードの動きがすごくよくなっていると嬉しいです。ただ、嬉しいところは人によると思います。

アカデミーの選手が正代表に選ばれているのも嬉しいのではないですか。

それはありますね。ファーストキャップを獲った選手が、去年、今年と多いので、高校生の時に来たときのことを思い出しながら感慨深く、嬉しく感じています。そういう姿を見られるというのは、ありがたいポジションにいると思いますね。

女性のS&Cコーチは少ないそうですね。

少ないです。なる前は人気の仕事なのかと思っていたのですが。周りから見えない場所で動いているので仕事としてイメージできないのかもしれません。私がS&Cコーチになったことで、注目されるきっかけになれば良いと思っています。バスケットボールやバレーボールには見かけますが、フィジカルを高めるスポーツでは女性は少ない気がします。世界を見渡しても、女性アスリートが活躍しているので、そういう競技こそ女性のS&Cコーチがいたほうが選手は安心すると思うし、女性特有の問題、身体を触ることが多い仕事なのでハラスメントの問題もあります。増えてほしいと思います。

ラグビーという競技については、どんなところに魅力を感じますか。

フィールドに立っている人数が圧倒的に多く、それぞれが違う動きをしてぶつかり合う特殊な競技だと思います。自ら危ない動きをしに行くスポーツでもあるのですが、泥臭く体をぶつけ合うからこそ絆が深くなるのでしょうね。ラグビーをやっていた人がコミュニティに入ってくると、一気に仲間になりますよね。あれはラグビーしかないのではないかと思います。痛い競技をずっとやっていたという見えない絆が、ラグビー経験者の中にあって、初めて会ったのに、その瞬間から友達みたいに話すというのがすごいと思います。

知念さんは身長も高いし(177㎝)、自分でやりたいと思わなかったのですか。

いろいろな人に勧められましたが、痛いのは苦手です(笑)。セブンズの練習でたまに選手のタックルを受けることがありますが、あれが限界。この競技を選ぶ人は、それを上回る魅力があるのでしょうね。兄にも東芝の人にも「いつから選手になるの」と言われましたが、やらずにここまで来ました。ただ、この体はS&Cコーチとしての説得力に繋がっているとは思います。

いまラグビーに関わっている中学生や高校生にアドバイスはありますか。

S&Cコーチからの視点で言うと、もっと自分の体を知ってほしいと思います。その上で必要なトレーニングや食事をしてほしいのです。周りの大人もアスリートの体をもっと知るべきです。私立の学校ではS&Cコーチがいるところもありますが、不在のところは高校生が独学でトレーニングをしたり、リカバリーをしていなかったりする。ウエイトトレーニングでは、重いものを持ち上げる前に安全な動きなどを身に着けてほしい。そういったことを教える専門家が必要です。
 学校のシステムや、経済的な事情もあって難しい学校があると思いますが、健康に安全に競技を長く続けてほしいというのが私の願いです。自分の体を知ることがはじめの一歩です。日々の体重の変動を知るだけでも水分摂取量の意識が変わります。
 休みが少ないのも気になります。特に男子はずっと試合をしていますよね。花園が終わって休む間もなく新人戦がある。ラグビーをせずに、身体にフォーカスを当てる時間を作らないと、怪我を持って大学やリーグワンに行くことになります。高校生の時に負った傷が、大学生、社会人になったときに影響して、パフォーマンスが上がらない選手をたくさん見てきました。
 私が担当するアカデミーでは体を休め、リカバリーする方法を、時間をかけてインプットしています。トレーニングのあとのストレッチや食事などですが、自分の生活の中でできるリカバリーの方法を持ち帰って継続してほしいです。海外では学校にS&Cコーチの仕事があり、トレーニングの専門家を学校単位でしっかり配置している印象です。
 日本でも部活のコーチを派遣する地域がありますが、トレーニングの専門家を各学校に一人置いてほしいです。体育教師とは別に考えるべきです。

ご自身の目標を聞かせてください。

私の願いは、中高生のアスリートが健康で安全に長く競技を続けてほしいということです。いま関わっている選手、これから関わる選手にはそうしたビジョンを伝えつつ、体づくりを教えていければいいと思います。指導者の皆さんにもこのことを訴えていきたいです。